矢祭町で「矢祭米」を生産している「有限会社でんぱた」代表の鈴木正美さんに、でんぱたこだわりの「矢祭米」のお話と、これからの農業についてのお話を伺いました。

(有)でんぱた 鈴木 正美さん

こだわりの「矢祭米」
でんぱたでは、味と品質にとことんこだわったお米「矢祭米」を生産しています。
今年の米の作柄は「平年並み」で、夏場暑い日が続き高温障害などの心配はありましたが、結果的に出来上がった米を見ると、影響はほとんどありませんでした。しかし、暑さの影響でカメムシ防除の適期の見分けが難しく、カメムシ被害は比較的多くなってしまったそうです。カメムシの被害を受けた米は黒色の斑点ができ、売り物にならなくなってしまいます。カメムシの防除は業者に頼んで行うため、業者の都合等で適期防除とならない可能性があり、防除に関してはさらなる工夫が必要だと感じたそうです。
また、稲刈りの時期には長雨があり、刈り遅れの心配があったそうです。刈り遅れると発芽したり倒伏してしまい、品質低下の原因となってしまいます。しかし、でんぱたではほぼ予定通りに刈り終えることができたそうです。

「矢祭米」

作付け品種は、「矢祭町は面積が小さい分、販売用に作るというよりも、自分や家族、友人が食べる米というウエイトが大きく、うまい米を食べたい・食べさせたいという思いが強く、そのようななかで矢祭町で作ることができるベストなお米は何かと考えた結果、100%コシヒカリを生産している。」とおっしゃっていました。
矢祭町は砂混じりの土壌で、コシヒカリで有名な新潟県の魚沼と似たような土質条件を有しており、コシヒカリを生産するのに合っているそうです。しかし、砂混じりの土壌は養分排泄が早く、矢祭町では他地域と比較して三割ほど収量が少なくなってしまいます。
鈴木さんは「経営的にはかなり厳しいが、先祖が苦労して開墾し、整地をして代々受け継いできた農地を、簡単には無くせないという責任感の中で農業を行なっている。俵数採りが難しい分、品質・味で勝負している。」と力強くおっしゃっていました。
でんぱたでは、白米にした時の味を追い求める上で、特に「精米」に気を使っており、鈴木さんは、米の持っている本来の味と精米の重要度は五分五分であると考えているそうです。そのため、でんぱたでは契約精米工場にて、ゴミの除去や二度の精米、割れ米の除去など22もの工程を経て精米をおこなっています。
品種選定から栽培、精米まで妥協しない姿勢が「矢祭米」のブランド価値を保っているのですね。

矢祭町農業法人会情報誌「矢祭時間」より

でんぱたでは「矢祭米」を味や品質にこだわって生産していますが、消費者の食味の変化、お菓子や調味料の味に慣れきって、米の本来の味がどんなものか、美味しいお米とはどんなものかといった感覚が失われていくことを心配しています。それは、野菜や加工品についても同じで、農産物の本物の「美味しさ」が失われていくことに危機感を感じておられます。

農業を変えたもの
農業の姿を変えたものは、大きく分けて「品種改良」と「機械化」に分けられます。品種改良によって食味や耐病性は大きく改善され、比較的安定して高品質な米を生産できるようになりました。また、それ以上に機械化による変化は大きく、現在は家庭菜園規模でさえ機械で耕す時代になりました。鈴木さんのお父様の時代(昭和初期~中期にかけて)には、馬や牛を用いた農業が行われており、地域住民や青年会総出で協力し合いながら田植えや稲刈りなどが行われていました。お父様の世代から、現在の鈴木さんの世代のわずか1世代で、ここまで農業の機械化が進んだのは、世界でも日本ぐらいではないかとのことでした。

昭和初期~中期の矢祭町東舘駅近くでの田植え

しかし、他産業と比較すると農業は日本の産業の中で、最もIT技術の導入が遅れている産業でもあります。天気・気温・土壌・虫・病気など、不明瞭で繊細な要素の多い環境で繰り広げられる農業が現在まで「経験と勘」だけで行われ、かつここまでのクオリティの農産物を生産し続けてきたことには、鈴木さん自身も驚きを隠せないとおっしゃっていました。
今後は土の成分分布や葉の色による生育状況の判断などを数値化し、データとして次世代に伝えることができるように技術は進化していくと考えられ、それによってこれまでの「経験と勘」頼りの、後継者の育ちにくい農業から脱することができるのではないかと考えているそうです。しかし、実際に1枚の水田全体の土壌成分を細かく計測すると、場所によって土の成分・状況はそれぞれ異なり、さらにそれが複雑に分布していることが判明しました。こうして計測したデータを最大限活用するには、そのデータをもとに微細な調整が行える機械器具(例えば農薬を撒く機械なら、このエリアには○g/㎠撒くが、数センチずれたこのエリアには△g/㎠撒くなどの微細な制御ができる機械)が必要であり、その導入には莫大な資金が必要となります。先端農業の研究に携わり、なおかつ生産の現場にも立っている立場から見ると、依然ハードルは多く、まだ「経験と勘」の農業が有利なのではないかとおっしゃっていました。

これからの農業
農家はこれまで、国民全体の食糧を支える大切な役割を担ってきました。
しかし現在、農業就業人口は減少の一途を辿っており、さらに外国産の作物の輸入増加により、日本の食糧事情は大変不安定なものになっています。 鈴木さんは、これからの農業について「これからの農業の世界では、作物や技術に関する事よりも、農業就業人口の減少などの『日本の農業の存続』に関する問題に対して優先的に取り組んでいかなければいけない。」と考えているそうです。
さらに「農業者自身が『こうしていくべきだ』『自分たちはこうしていきたい』という声をあげ、農業がしやすい環境を求めて積極的に働きかけるべきであり、農家が安心して農業ができる社会づくりをしなければいけない。さらに消費者に対しては、農産物に関する知識、立ち位置を理解してもらえるよう働きかけ、生産者と消費者がお互いを理解し、信頼し合えるような関係を築き上げる事で、親しく緊密にお互いを守り会えるようになるのではないだろうか。」とおっしゃっていました。
これからの日本の農業・食糧の位置付けを国民全体で考え、生産者と消費者の信頼関係がより増すような社会を目指す事が、「日本人の生命は日本の食糧で守る」事につながるのではないかと感じました。

お忙しい中、ありがとうございました。

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