農業の後継者不足や米価の低迷など、農業を取り巻く問題は様々ありますが、近年農業を志す若者が徐々に増え始めているそうです。今回は、これから新たに農業を志し、これからの農業を生きぬき、盛り上げるにはどのような力が求められるのか、「これまでの農業、これからの農業」とについて、白河市表郷「吉野家ファーム福島」の滝田国男さんにお話をうかがいました。

「吉野家ファーム福島」滝田国男さん


吉野家ファーム福島
吉野家ファーム福島は、主に牛丼チェーン「吉野家」向けにお米や野菜を生産しています。今年のお米の出来は、夏の日照不足が心配だったが、おおむね平年並みとのことでした。主に生産している品種は、吉野家で使用する「ミツヒカリ」で、全て吉野家に出荷され、全量買取されます。
「ミツヒカリ」とは、吉野家で使用されているお米で、コシヒカリなどと比較すると穂は1.5倍くらい長く、粒量は約2倍多く、丈は30センチほど長いのが特徴の品種です。丼物やカレーライス、チャーハン・ピラフなどに向き、主に業務用として使用されるお米です。原種は南米産で寒さに弱く、日本ではこれまで生産の北限が北関東だったもので、福島では生育が難しく、福島県では品種登録されていませんでした。そこで滝田さんが3年間等級検査(生産された米について登録検査機関が行う品位および成分等検査のこと)を行い、売り上げを計上することで販売実績としてカウントされ、その実績が認められ、一昨年から福島県でも正式に「ミツヒカリ」として登録されました。福島県内では表郷の他に、矢祭町・福島市・西会津町で生産が行われているそうです。

安定した農業経営を実現している吉野家ファーム福島・滝田さんですが、プロの目からは、今後の農業はどのように見えているのでしょうか。


これまでの農業
「3ちゃん農業」といった言葉に表されるような、家族経営・手作業の農業はここ30〜40年で大きく変化しています。特に稲作は昭和40年代から水田の区画整理が始まり、それに伴い機械化が大きく進みました。それと同時に米の値段は昭和60年代まで上昇を続け、これによって農家は更に規模拡大・効率化のための設備投資を行い、従来の家族経営・手作業の農業からの脱却はますます加速していきました。

↑米価の推移(農林水産省 米価に関する資料 H15)


農業以外の社会の変化もめまぐるしく、これまで人家や水田、畑などで構成されていた農村地帯に工業団地・工場などが進出しました(日本列島改造論)。それに伴い、勤めながら農業を行う「兼業農家」が増加していきました。また、農業の機械化が進んでいるとはいえ、兼業農家が農業に割ける時間は限られており、さらなる効率化を求めて高性能なトラクターや田植え機などの農業機械を、農家の負担により再び導入することとなりました。
しかし、上がり続けていた米の価格は、米の国内消費減少などにより昭和60年代(18,000円代/1俵)をピークに下落を続け、農家の経営状態は悪化していきました。
現在、農家の高齢化が進み、「いつまで続けられるかわからない」「自分に万一のことがあったら、先祖から受け継いできた土地はどうなってしまうのか」などの心配から、その地域のなるべく若い、信頼の置ける人物へ農地の管理を委託する動きが増えてきているそうです。国も大規模経営農業を推進するため、農地の集積(流動化)を進めていますが、その農地を管理する担い手農家が不足している状況となっており、この状況はしばらく続くと考えられています。

担い手の農地利用集積の概要について(農林水産省 H27)

これからの農業
以上のようなことから、中小規模の家族経営的農家は減少していくと考えられており、今後は集落内で手を結び、農業法人などによる組織的な経営形態が増えていくと考えられています。
(「農業法人」とは、法人形態によって農業を営む法人の総称で、この農業法人のなかで、 農地法第2条第3項の要件(「法人形態要件」「事業要件」「議決権要件」「役員要件」)に適合する“農業経営を行うために農地を取得できる”農業法人のことを「農地所有適格法人(旧:農業生産法人)」という。 法人が農業を営むにあたり、農地を所有(売買)しようとする場合は、必ず上記の要件を満たす必要がある。)

農地所有適格法人(旧:農業生産法人)の農業参入について(農林水産省 H27)

これまで家族経営的で小規模だった農業経営体が、法人経営へと変化していくことで、新たな雇用を生み、給料を支払う雇用型の産業形態へと変化していきます。それは同時に農家に人的リソースの増加をもたらし、幅が広がることで、これまで生産だけで手一杯だったものが、販売・加工・体験受け入れ・地域貢献活動など、さらに広い視野で農業を無理なく効果的に進めることができるようになります。そのためには適切かつ健全な法人運営が求められ、「売上高〇〇円」といった目標を掲げ、それを達成・維持できる経営能力やマネジメント力が今後の農家には求められていきます。
さらに、これまで農家は「生産・出荷」のみを行う場合がほとんどでしたが、インターネット販売や直売所、地元スーパー、地元飲食店、ホテル、外食チェーンなど、販売先・方法が多様化していることから、現在は生産スキルに加えて販売スキルや交渉力、ITスキルなども求められています。しかし以上のような経営を行う大前提として、これまで地域によって守られてきた農村風景や伝統、地域のつながりなどを壊すことがないように注意する必要もあります。

法人経営により農業の幅が広がる

滝田さんのお話から、数十年前には誰も手放さなかった農地が、現在は高齢化などによって手放すことを余儀無くされていたり、インターネットの普及や交通輸送網の整備によって販売方法やエリアも多様化しているなど、これまでの農業の形が大きく変化している今、先人たちが築き上げた農村の風景・文化を守りつつ、新たな日本の農業の形を模索し、構築していくことが求められているのではないかと感じました。
最後に滝田さんは「農業は、小さい面積ならば最低限の農具類でスタートすることが可能であり、やる気さえあれば誰もが参入しやすい産業である。そこから規模を少しづつ大きくしていく面白さが農業にはある。農業は決して無くなることのない産業であるが、『一発当てる』ことができない産業なので、そのことを理解して地道に数字を追い、コツコツと続けることが大切。」とおっしゃっていました。

お忙しい中、ありがとうございました。